1.Problem


あなたは男子トイレと女子トイレを間違えたことがあるだろうか。間違えたことがないと答えたあなたは大変恵まれている。今まで入ったトイレは、デザインが正常に機能していると言えるからだ。写真は東京工業大学のトイレである。向かって左が男子トイレ、右が女子トイレである。ここでは、男子トイレ女子トイレの出入り口を間違えるというあってはならないエラーが多く発生している。それはなぜだろうか。
・どこに落とし穴が?

私たちはトイレに入る時、サインやピクトグラムを見て、場所や男女の区別を判断して入る。つまり判断ミスが起こる理由はサインやピクトグラムにあるといえる。
上が写真に写っているピクトグラムである。色は赤と青。一般的には男性が青色でズボン、女性は赤色、スカートを履いている。基本的には諸外国でも同様の標識が用いられている。性別を区別するのに、形と色の両方が用いられており、二重に確認できる方式を採用することにより使用上誤りないよう徹底している。
1999年6月、某テレビ番組で男女の色を逆転させた実験を行った。その際、ほとんどの被験者が男女の出入り口を間違えたという実験結果が出た。このようにデザインは色と形を変えると意味がなくなってしまう。
では、間違いが起きた写真のトイレはどうだろうか。ピクトグラムの形、色ともに正常である。
ではなぜ間違いが起きたのか。
2.Ploblem definition
・エラーの原因は?

形、色が正しいのにエラーが起こってしまう理由。それは「位置」である。ピクトグラムの男女の左右と出入り口の左右が対応付けされていない。
具体的にどのようなエラーが起こっているのだろうか。正常に機能しているトイレは上の画像のようになっている。これと比較すればエラーの原因がわかるはずだ。
①サイン

私たちは①遠くからサインを認識し、②トイレのピクトグラムを確認する。ここにトイレの出入り口があることを認識する。③サインが一つになっていることから、出入り口の「場所」ではなく「左右」を認識する。このトイレのサインは男女の出入り口が左右どちらにあるかを示している。
②ピクトグラム

形、色は正常。となると、問題は位置である。この配置を見て、出入り口は手前と奥、どちらだろうか。まっすぐ見たとき、ピクトグラム左が手前、右が奥と認識するのではないだろうか。

こういうことになる。しかし実際は逆だ。

ピクトグラムと出入り口の対応付けがされていない。ここではこういったエラーが起きている。
3.Creation
・検証してみる


テストしてみる。まず現状はこう。
1:ピクトグラムの位置を変える


ピクトグラムの男女の左右を変えた。これで左が男子、右が女子と認識できる。または出入り口の位置を変えても良い。このトイレの表示がエラーを起こしており、またその原因はサインの位置にあることがわかった。
4.Prototype
・対応づけ
取り上げたこのトイレは、「対応づけ」がされていないことが問題である。「対応づけ」とは何か。
「対応付け(マッピング)は、数学から借りてきた専門用語で、二つの集合体の中の要素同士の関係を意味している。」(D・ノーマン 『誰のためのデザイン?』)
代表的な例だと、部屋の電灯のスイッチが挙げられる。複数ある壁のスイッチのどれを押せば天井の電灯がつくのか。電灯の近くには配置できないため、少しでもずれるとエラーが起きる。自然な対応付けとは、サインとそう指すべき対象との間が明白なことであり、空間的な手がかりを用いる。自然な対応づけとは何か。
1.つまみが、操作すべきものに直接備わっている。
2.操作される対象のできるだけ近くにある。
3.操作すべき対象と同じ空間配置になっている。「D・ノーマン『誰のためのデザイン?』
この三つが理想的な対応付けである。
問題のトイレと比較してみよう。1.2.サインは出入り口、もしくは近くについていない。二つの中間に位置している。3.の同じ空間配置をしている同じ空間配置とは二次元が一次元になっても配置をしているということである。このxy軸に位置するサインをz軸に置き換えてみる。軸を同じにしてみると、サインと出入り口(サインの示す場所)が反対で、対応していないことがわかる。
デザインエラー
正しい対応づけとは、空間配置が同じであること。つまり軸を同じにした際に同じ位置をとっていることである。私たちは無意識にサインとその対象を結びつけているが、それが少しでもずれたとき初めて対応づけの重要性に気づく。操作や行動を誤った場合、ユーザーはこちらのミスだと思い込んでしまう。ヒューマンエラーだと考えがちだ。しかし述べたとおり、問題のトイレは、ユーザーに問題があるのではなくデザインに問題があった。これは明らかにデザインのミス、デザインエラーである。
5.Test
今回取り上げた事例は「対応づけ」がされておらず、正しい表示をしているのにも関わらずエラーが起こっていた。デザインにおいて、「位置」は大きい役割を果たしていることがわかった。また、我々はサインとその示す場所を対応づけするとき、軸を同じにして考えていることがわかった。人間の認知には明確な理由があること、デザインが構成されている要素が一つでも欠けると機能しなくなること、そしてその機能の一つに位置があること。今回発見したことを必ず抑えるべき点として制作していきたい。