サイト要旨

武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科では、 ヴィジュアル・コミュニケーションの領域から情報デザインに取り組み、 ユーザビリティ やインタフェース・デザインの研究と教育を始めました。 これらは、1970年代初頭よりコンピュータとデザインの実験的な授業を開始し、1993年には情報デザインの授業を立ち上げた 下村千早教授 (現名誉教授)を中心に行なわれてきたものです。
現在もHCD(人間中心設計)の思想のもと、新しい時代のデザインの問題に取り組んでいきたいと考えています。
当サイトでは、 視覚伝達デザイン学科3年情報デザイン ⅠA・ⅡAの授業内容を中心に、関連授業や関連情報を紹介するものです。

なお、このサイトに関する一切の責任は私(西本企良)にあります。 ご意見・お問い合わせを、是非お寄せください。

 

西本企良

下村千早教授 退任記念誌のご紹介
「インフォメーション+セミオティクス+デザイン」

視覚伝達デザイン学科における情報デザインとデザイン記号論の研究と教育

下村先生は1960年代に、芸術史上類例のない芸術様式を創造した『芸術情報革命』の前衛に参加し、コンピュータ・アートの先駆者として創造と研究の活動を始められました。その後1970年に本学産業デザイン学科商業デザイン専攻(1974年に視覚伝達デザイン学科に改称、独立学科になる)の専任講師に就任されてからは、その創造と研究をベースに常に情報時代の変容をいち早く捉え、新しいデザイン教育を模索され、それをカリキュラムに反映してこられました。その活動は40年以上に渡り、記号論や情報美学、コンピュータ、マルチメディア、インタフェース、視覚言語、造形理論、認知科学、メディア論など、多様な分野を統合的に捉えて現代のデザインの役割と可能性を考察し実践していく、非常に本質的な研究・教育活動でした。 これらの研究から出てきた「人と情報の対話の形をデザインする」という考え方、すなわち、情報デザインの能動的、インタラクティヴなヴィジョンは、旧来の解釈的で鑑賞的な美術教育にはなじみのないものです。しかしコンピュータが生活の隅々にまで入り込み、自然環境や社会状況の急激な変動にも対応しなければならない現在、その重要性はますます明らかになっており、それらを教育にどう取り入れて、現代社会に適応でき、さらに次の時代の芸術を創造できる学生をどう育てるかは喫緊の課題になっています。 この記念誌『インフォメーション+セミオティクス+デザイン』は、長年の下村先生の研究・教育活動のうち、情報デザインとデザイン記号論に関するものの一部を、教え子の関連授業の成果と、現在情報デザインの領域で活躍している元受講学生の卒業制作とともに紹介するものです。


本誌の構成

第1部 情報デザイン/情報時代のデザイン領域の創造 Thinking Visually !:情報デザインのグラウンド

  1. プロローグ:情報デザインと視覚伝達デザイン学科のカリキュラム改革
  2. 基調論文:情報デザイン:認知的人工物/対話的人工物としてのインタフェースのデザイン
  3. 情報デザインの教育的実践の記録 学部:卒業制作、大学院:修士制作/研究
  4. 寄稿論文:コンピュータグラフィックス・プログラミングことはじめ

第2部 デザイン記号論/現代デザイン記号論のプラグマティズム

  1. プロローグ:情報と記号との出会い
  2. 基調論文:情報デザインをとおして情報学と記号論を結びつける試み
  3. 視覚伝達デザイン学科におけるデザイン記号論教育
  4. デザイン記号論の海外交流プログラム トーマス・オッカース教授による記号論プロジェクト(特別授業)の紹介
  5. 寄稿論文:デザイン記号論の基礎研究 66の記号クラスを特徴づける30の記号群

冊子をご希望の方へ

下村千早教授退任記念誌「インフォメーション+セミオティクス+デザイン 視覚伝達デザイン学科における情報デザインとデザイン記号論の研究と教育」(2012年)を、この分野に興味のある方へ配布しております。
ご職業、ご希望動機、送り先住所・氏名などを明記して下記アドレスまでお申し込みください。内容を確認の上、後日送料着払いで郵送させていただきます。

情報デザインとは?

「情報デザイン」は、劇的に変化した情報環境の出現によって生まれた全く新しいデザインの領域と思想:

インターネットの爆発的な普及と、スマートフォンなどのモバイル通信機器の発達により、人々を取り巻く情報環境は劇的に変化しました。今や人々はモバイル端末を使って常に遠く離れた友人とコミュニケーションをはかり、チケットの予約やネット通販での買い物をしたり、GPSを使っての地図案内で便利に移動したり、AIによる自動運転車も現れています。
これから学んでいく若い人たちには、是非、生活と感性に密着した現在形のメディア、未来形のメディアのデザインに取り組んで欲しいと思います。そこには旧来よりもはるかに統合的なデザインの可能性と、国際的なデザインとのつながりが開かれているのです。

現在あらゆるデザイン領域はコンピュータとインターネットなどの情報通信技術(IT)革命の真っただ中にあります。「情報デザイン」はコンピュータ、ソフトウェア、マルチメディア、インターネット、モバイル通信などの出現によって生まれた全く新しいデザインの領域と思想です。IT革命は単にデザインの技術・方法・表現を変革しただけでなく、デザインとは何か、コニュニケーションとは何かという根源的な問い直しを求めているのです。このようなデザインの変革と創造の機会に出会う事は、創造者としてまたとない幸運でしょう。
情報デザインは、人間が情報社会で協同して行動するために必要な人間、社会システム、情報、表象(記号)、出来事、環境、情報ネットワークなどとの間のインタラクティブな活動プロセスのデザインに関わっています。情報デザインの認識と技術は、次の6つの基本的なプロセスから組み立てられています。

6つの基本的プロセス:

  1. 認知プロセス:

    人間は、出来事、環境、表象、システムなどとのインタラクティブな相互作用をとおして生きる活動を形成している。情報デザインは、人間の行動とコミュニケーションを組織している認知プロセスに基づいてデザインを考える。

  2. ヒューマン・インターフェイス(HI):

    人間はデジタルな情報環境の中で活動するために、コンピュータや仮想現実などの諸メディア(HI)を媒介にして現実世界やサイバースペースとの対話をおこなう。

  3. インタラクティブ・ビジュアライゼーション:

    常に変化し続ける人間活動とシンクロナイズ(同調)して機能するためのメディアの表示・表現形態は、動的でマルチ感覚をもったビジュアル・システムが求められる。

  4. ネットワーク・コミュニケーション:

    個人が世界に情報を発信することができるインターネットは、広域の人や情報を結びつけて協同活動を助け、情報コミュニティ(情報共同体)をつくる。

  5. 情報のルール、アルゴリズム:

    情報プロセスは、情報世界に固有の言語と秩序で形成されている。情報の内容やシステムは、デジタル特有の手続きから組み立てられている。

  6. 情報デザインの社会性と理念:

    現代社会が直面している情報環境や地球環境の諸問題を生活と社会のなかでデザイン活動をとおして解決するための、新しいデザインの方向と考え方が必要とされている。デザイナーは個性と創造性を生かして、どのように社会に参加できるだろうか。

授業概要

前期・後期の授業の進め方

まずユーザーの利用実験の基礎から始め、段階的に設定された課題の実習をとおして、情報デザインの諸問題を考えていく。その中で、情報の特質と人間の認知の関わり合いを系統的に理解し、情報デザインの具体的な制作へ応用することを修得する

学習のプログラム

先ず、「デザインは、人々や生活、社会、情報、環境などの様々な要求、要素、機能、技術、表現を統合し、全体として実際的な目的や価値の創造を達成する統合的で社会的な活動である」というデザイン本来の目的を認識し実践することが最も重要です。 この授業のプログラムは、情報システムとネットワークを企画し構築する、4つの側面の学習を含んでいます。

  1. 統合的なデザイン演習(方法と制作と実際)
  2. 統合デザイン演習は、デザイン活動の全体性と統合性(行動の目的性と統合性と価値の創造)を学習する最も重要なプロセスです。この演習では、社会的目的をもった情報システム(例えば、共同活動を支援する情報システム)を制作し、情報分析、問題発見、コンセプトと企画、システム設計と制作、インタラクション・デザイン、シミュレーション、ユーザーテストなど、情報デザインの統合能力と方法論を実際におこなってみて学習するのがねらいです。

  3. インタラクティブ・デザインの情報要素と技術の実習(要素と技術)
  4. デジタルメディアを、実際にデザイン・制作するために必要な、情報デザインの領域に特有のリテラシーと技術の学習です。例えば、ナビゲーション、動的情報構成、ソフトウェア言語、3D-CG、データベースなどなど。

  5. 情報と社会・歴史認識の深化(背景と知識)
  6. 情報とは何か。人々は情報をどう扱ってきたか。メディアの発展の歴史を辿り、情報の視覚化の多様性について認識を深める。

  7. プレゼンテーションと情報発信
  8. 情報デザインの学習作業プロセスは、インターネット上で行われます。学内外に向けてプレゼンテーション、情報発信、交流をおこないます。

授業の流れ

「授業計画:前期」

[前期第1~5週] コミュニケーションと認知(課題Ⅰ)

~人々がコミュニケーションをする課程で「メッセージ」は、どのような要因で、どのように変化・変容されるのだろうか?~
人間の認知的メカニズムがコミュニケーション・デザインにどのように関わっているのかを、実験をとおして学習します。
同時に実験での記録の方法と、情報の分析の方法を習得することも目的としています。

前期同時並行授業

[前期第1~12週] 

インターネットやプログラミングの学習とWebサイトの制作(プログラミング特別講義)

さらに、同時並行でHTMLやCSS、JavaScriptを用いたWebサイト制作の技術、及び、インタラクティブ・ビジュアライゼーションの表現技術を学習します。
前期・後期の課題制作では、それを応用してデザインをおこない、Webサイトにまとめた上で、プレゼンテーションを行ないます。

[前期第3週~後期第1週] 

「誰のためのデザイン?」経験レポート課題

同時並行で「誰のためのデザイン? 増補・改訂版」(D.A.ノーマン) を各自に読んでもらって、 生活上の身近なデザインの問題をとりあげ、本に書かれている内容に照らして、それぞれの考察をレポートしてまとめ、HTMLファイルでwebにアップロードすることをめざします。

「授業計画:前期中盤〜後期」

前期中盤〜後期第1週は、第1課題に引き続き第2課題「インタラクションとタスク・プロセス」に取り組みます。その後、それまでに学習した情報デザインの基礎的な考え方、方法、技術を基に、自ら情報デザインのテーマを設定して、創造的なデザインを試みる最も重要な段階に入ります。
デザインにおける統合的な考え方と問題解決のためのデザイン・プロセス、すなわち、<コンセプトの確立 →フィールド・リサーチ →テーマの企画 →仕様と機能のデザイン →プロトタイプのデザイン →インターフェイスのデザイン →ユーザーテストと評価・問題点>を、自分たちの提案した課題を通して学習していきます。

[前期第6週~後期第1週] 行為の変革の可能性の探索(課題Ⅱ)

アクターネットワーク理論を学び、特定の社会的テーマに関わる行為のネットワークを調査していきます。様々な調査手法:観察、インタビュー、プロトタイプを用いた実験による発見(Research through Design)を繰り返す中で、変革の道筋を段階的に見つけていきます。最終的には調査結果をもとに各自で改善案を考えプレゼンテーションを行ないます。

[後期第2~13週] 社会性のある情報のテーマの模索から情報デザインの提案へ(課題Ⅲ)

まず「デザイン思考」の ワークショップを行い、身近な題材を取り上げて「デザイン思考」のプロセスを用いて問題の解決を図ることを試みます。

その後、前期・後期で学習した情報デザインのスキル、技術、理論、方法、プロセスなどを応用、展開して、情報デザインに関連するテーマを自由に設定し、そのデザイン制作をおこないます。
特に現在、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による世界的な大混乱の中で、大きく変化する情報化社会、ますます深刻化する地球環境に対応すべく、若い世代の新しい時代精神が求められています。